という書き出しの文章が今日一日でどれだけ生産されたかわからない。が、どれだけ没個性な表現になろうとも、紛れもない実感として、今、この家は、とても、暑い。
給料が入ったので購入した古川日出男の文庫『サウンドトラック』。夕方から稽古なのでそれまで久々の読書タイムだと、そう決めていたがそんな意思決定もぐしゃぐしゃに湿る蒸暑さ。そのうえこの小説、夏の小笠原諸島とヒートアイランドの進行した東京が舞台なのだ。濃密な亜熱帯気候の描写にクラクラする、いやコレは実際我が家の気温が、ダメだ1/4ほど読み進めたところで、ボーッとして物語に追いつけなくなっていることに気付く。気分転換をしたい。どんな気分かというとただ「暑い」。しかし転換しようにもそもそも冷房のないこの家で暑さからは逃れられないのだ。
仕方ないので本を手放し横になる。畳に寝そべると熱が逃げる、気がする。そのまま少し寝てしまう。
大量の汗で目が覚める。いかん、このまま何もなく一日が終わってしまうぞ、我慢ならん。そう思って取り敢えず読みかけの文庫持ってマクドナルドに逃亡する。あそこならドリンクLと冷房が待っているのだ。
ちょうど放課後に差し掛かる時間で、店内には制服姿で賑わっいる。なんとか静か目のゾーンに席を確保し、さっきの続きに手を掛ける。冷静さを取り戻した脳に、古川文体のリズム感が心地良い。
半分くらいまで読んで、一息。さっきよりさらに混み合って来た。が、あと一時間ほど稽古まで粘らせて欲しいな、と思う。そして、右隣でトランプをやっている男子学生2人がなんとなくのルールでのブラックジャックを諦め、ポーカーを始めたところでやつらが現れる。
女子2人。私服だが学生カバン。手に下げた紙袋の中は、おそらく制服だろう。
さっきまでサラリーマンが座っていた俺の左隣に陣取り、手にした缶のドリンクを飲みつつなにが面白いのかケタタマしく笑う。
缶だと。
うるさいのは置いておくとして、店内で堂々と持ち込んだ缶ジュースを飲み、しかも見たところこいつらは何も注文していない。しかもやたら声が甲高い。
俺は急速にイライラしながらさっき以上に文庫本に集中しようとする。ここで席を変えたり本を置くのは、間違いなく敗北である。
女子どもは笑う度に手に持った缶を机にガンガン叩きつける。金属音が耳障りでしょうがない。一人が携帯で話し出す。ダブルデートの待ち合わせらしい。またもや的確に腹が立つポイントを攻めてくる。
と、お分かりの通りここまで結局読書になっていない。が、文庫本だけは手放さず、目線は文字に落としつつポーズだけは続ける。俺はもはやなんの意地かも見失っている。
と、そこに店員のオバちゃんがやってくる。なにやら女子どもと揉めている。まあ注文していない上の持ち込みだ、当たり前だいい気味だと目をやると、なんと白昼堂々2人がガバガバ飲んでいた缶飲料はチューハイである。それを見咎めてオバちゃんは怒っていたのだ。
こいつらはどこまでアホなのだ。
俺は呆気にとられるというか、さっきまでのイライラがバカバカしさにとって変わられるのをかんじる。
オバちゃんは怒鳴りはしないが、声にはかなりの苛立ちが含まれている。そりゃそうだ、このクソ忙しいときに、というのに加えておそらく相手は娘くらいの年齢だろう。
バカガキどもはただ黙っている。オバちゃんから目を逸らし、見るからにやり過ごす体制だ。それが余計にオバちゃんには気に入らない。が、そこは大人なのだろう今すぐ退店すれば他には連絡しない、ということになった。
完全に不貞腐れながら荷物をまとめる2人。片方は帰りがけに残りのチューハイをグイっと開け、ガンと空き缶をそのまま机に置き放してから出て行った。
もう俺はなんだか、もうゲンナリしてしまって諦めて文庫を閉じる。完敗です。
右隣ではついに七並べが始まる。マックの狭い机ではカードが並べきれない。仕方ないので少し重ねたり途中で並べ方を折り返したりするから、結局どのカードが場に出されているかわからず、大混乱でゲートが進まない。
稽古までまだ一時間近く。さてどうしようかと思いつつ、やっぱりここにはいられなくて、俺は炎天下に出る覚悟を決める。
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